かのとまりにし人々、宮渡りたまひて尋ねきこえたまひけるに、聞こえやる方なくてぞ、わびあへりける
あちらの屋敷に留まった女房たちは、宮様がいらっしゃり、若君の所在を尋ねたのだが、お答えできかねて皆困っている。
しばし人に知らせじ、と君ものたまひ、少納言も思ふことなれば、せちに口がためやりたり
しばらくは誰にも知らせないように、と源氏もおっしゃり、少納言もそのように思い、厳重な口がためを言い送った。
ただ、行方も知らず、少納言が率て隠しきこえたる、とのみ聞こえさするに、
ただ、「行方は知らせずに、少納言が姫様をつれて、どこかにお隠れでいらっしゃいます」とだけ申し上げさせたので、
宮も言ふかひなう思して、
宮様も、仕方なく思われて、
故尼君もかしこに渡りたまはむことを、いとものしと思したりしことなれば、
「亡くなった尼君も、姫君があちらの屋敷に行かれるのを、たいへんなことと思っていらっしゃったことなので、
乳母の、いとさし過ぐしたる心ばせのあまり、
乳母が、行き過ぎた心遣いのあまりに、
おいらかに渡さむを便ばしなどは言はで、心にまかせて、率てはふらかしつるなめり
穏便に、お移しするのは困ります、などと断りを言わずに、心にまかせて連れ出して、放り出してしまったようなものだ。」
と、泣く泣く帰りたまひぬ
と、泣く泣くお帰りになった。
もし聞き出でたてまつらば告げよ
「もし行方がわかったならば、知らせておくれ」
とのたまふもわづらはしく
とおっしゃられるのも気がおける
僧都の御許にも尋ねきこえたまへど、あとはかなくて、
僧都のもとにもお尋ねになるのだか、まったく手がかりもなくて、
あたらしかりし御かたちなど、恋しくかなしと思す
本当にすばらしいご容姿であったななどと、面影を思い焦がれ、せつない気持ちでいる。
北の方も、母君を憎しと思ひきこえたまひける心も失せて、わが心にまかせつべう思しけるに違いぬるは、くちをしう思しけり
北の方も、姫の母君を憎しと思っていた気持ちも消えて、自分の心から娘を引き取ろうと考えていたのに、そうとも叶わなかったので、残念に思っている。