やうやう人集まりぬ
だんだんと仕える者も集まってくる。
御遊びがたきのわらわべ、稚児ども、いとめづらかに今めかしき御有様どもなれば、思ふことなくて遊びあへり
遊び相手の童べや、幼児など、源氏と紫の君のご関係などなんとも思うことがなく、ご一緒に遊んでいらっしゃる。
君は、男君のおはせずなどしてさうざうしき夕暮れなどばかりぞ、尼君を恋ひきこえたまひて、うち泣きなどしたまへど、
紫の君は、源氏がいらっしゃらずなどして、さみしくなった夕暮れなどには尼君を恋しがって泣いていることもあるけれども、
宮をばことに思ひ出できこえたまはず
兵部卿の宮を特に思い出すことはない。
もとより見ならひきこえたまへでならひたまへれば、今はただこの後の親をいみじう睦びまつはしきこえたまふ
前々から、離れてお暮らしになって、そういうものと思っていらしたので、今はただこの後の親にたいそう慣れ親しんでいらっしゃる。
ものよりおはすればまづ出でむかひて、あはれにうち語らひ、御懐に入りゐて、いささかうとく恥づかしとも思ひたらず
外からお帰りになるとすぐにお迎えに出られて、楽しそうにお話をして、御ふところに入っていて多少なりとも、遠慮したり、恥ずかしがったりすることもない。
さる方にいみじうらうたきわざなりけり
そういう面ではたいへん可愛らしいことであった。
さかしら心あり、何くれとむつかしき筋になりぬれば、わが心地もすこしたがふふしも出で来やと、心おかれ、
女が利口ぶったり、出しゃばりな心があったり何くれとやりにくい様子であると、こちらの気持ちの中にも少し違う考えも出てくるのか、その女に心おきなく接することができず、
人も恨みがちに、思ひのほかのこと、おのづから出で来るを、
すると相手も恨みがちになり、思いもよらないことが自然と出てくるのだが、
いとをかしきもてあそびなり
紫の君は全くそんなことがない、理想的な遊び相手である。
むすめなど、はた、かばかりになれば、心やすくうちふるまひ、隔てなき様に臥し起きなどは、えしもすまじきを、
自分の娘であっても。このくらいの年になると、心を許して隔てなく、一緒に寝起きしたりなどは、できないものであろうが、
これは、いと様かわりたるかしづきぐさなり、と思ほいためり
紫の君は、まったく様子が違うが、大切にお育てする娘である、と思っているのである。